東京地方裁判所 昭和45年(モ)17223号 判決
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〔判決理由〕以上認定のとおり、(1)債務者と会社(更生会社)との間には本件契約の前年に一度赤倉チャンピォンスキー場のリフト、ヒュッテの取引をした以外には格別の利害関係がなかつたこと、(2)それにも拘らず、債務者は、親会社の援助をも受けて金融機関から借り受けた二億円の資金をそのまま低利(自ら日歩二銭の利息で借り受け、これを日歩二銭八厘ないし二銭九厘の利息で貸付けている)で融通していること、(3)債務者の本件契約締結の目的は、その索道事業拡張のため、専ら本件リフトおよびスキー場用地賃借権を取得するにあつたこと、(4)しかも右貸付金額と目的物の価格とが合理的な均衡を失していないと認められること、(5)そして、更には、その譲渡には関係官庁の許可を要し(索道規則・昭和二二年一二月二七日運輪省会第三四号第一九条)、買受適格者が限定されるうえに、付随する土地の利用関係の譲渡性も乏しく、換価が容易でないため、一般的には担保に親しみにくいリフト施設等をあえて譲渡担保の目的に供せしめていること等の諸事情を勘案するときは、本件契約はいわゆる流担保型の譲渡担保としてなされたものと認めるのが相当である。
尤も、前記乙第二二号証の四の契約書の第四条には、会社が弁済期に元金金額の支払をしない場合で、第六条による担保物件につき清算価格が本件貸金額に不足するときは日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う旨の記載があり、この条項はいわゆる清算型の譲渡担保に通有するものと解せられるけれども、前記契約の趣旨は契約条項全体からみて前記のように認められるのであつて、この点からすれば、右条項が当事者を拘束する意思をもつて記載されたものとは認めがたく、従つて契約書に右の条項があるからといつて前記認定を動かすに足りない。
次に<証拠>によれば、本件契約締結後の昭和四四年六月二三日、債務者は会社との間で、本件賃金債権中二、〇〇〇万円を担保するため、別に会社所有の横須賀市長浦町三丁目所在の山林四筆につき代物弁済予約ならびに抵当権設定契約をなしていることを認めることができる。ところで、<証拠>によると、債務者は本件契約の締結当時湯沢町の賃借権譲渡承諾書がえられないまま金員を貸付けたが、その後になつて債務者の小林部長が会社代表者岩倉具憲に対し本件契約の履行を確保する趣旨で、前記二億円の一部である二、〇〇〇万円の部分について重畳的に担保を提供することを求め、岩倉具憲もこれを承諾し、その結果横須賀市所在の不動産について前記代物弁済予約並びに抵当権設定契約が成立したことを認めることができ、右認定を動かすに足りる疎明はない。しかし、本件契約が締結当時の事情からして流担保型の譲渡担保としてなされたものであることは前記認定のとおりであり、事後に横須賀市所在の不動産について右の契約が締結されたからといつて、前記認定のさまたげとならないことは当該契約の経緯からみて明らかである。また、本件契約締結後二〇日を経てなされた右契約がいわゆる流担保型譲渡担保の性質を有する本件契約の全部又は一部を変更する趣旨でなされたかどうかについて考察するのに、これを肯認するに足りる疎明はないし、その契約成立の経緯や趣旨が前認定の程度に出ない以上、右契約の存在によつて本契約の性質が変動を受けるものと解することはできない。
なお付言すれば、本件リフト施設の譲渡は陸運局長の許可にかかる(索道規則一九条)ものであり、スキー場用地賃借権もまた建物所有を目的とする借地権のような強い保護を受けない権利であり、地主の承諾なしにはその権利は有効な実体関係を伴なわないものであつて、その意味においては一種の条件付権利ともいうべきものである。一般にこのような内容実現の不確定な権利を譲渡担保の目的に供した場合には、特別の事情がないときは、それが権利内容のいかんにかかわりなく確定的に譲受人に帰属し被担保債権債務関係が消滅してしまうといういわゆる流担保型のものではなく、むしろ一般には履行強制の機能を有するいわゆる清算型のそれに親しむものというべきであろう。しかし、だからといつて、流担保型の譲渡担保の合意を絶対に排斥しなければならない理由はないのであつて、本件においては、前記認定の如き契約締結の目的ないし経緯に加えて、後記認定のとおり、賃借地の大部分は町有地、一部は国有地であつて、その処分には特別の手続を要し、一般には融通性のないものであるうえに、町当局がその譲渡を承諾する態度を明白にしていたこと、索道事業の譲渡については陸運局長の許可を必要とするが、債務者としてはすでに赤倉チャンピオンスキー場を経営している索道業者であり、大手私鉄の一である京王帝都電鉄株式会社の系列会社であることからして、不許可となることは全く予想していなかつたこと等の事情の存することを考慮するときは、本件契約は、まさに前記特別の事情がある場合に該当し、成立を見るにいたつたものと認めるのを相当とする。
(緒方節郎 落合威 水谷厚生)